昔々、いや、それほど昔ではない現代社会のある所に、大学教授を引退した、「師匠」と、彼を慕って来る、秋山くんとの、ある会話です。
秋山「そういえば、最近、あまり『ナノ』という単語が聞かれなくなりましたね。もちろん、まだ重要な分野の一つだと思うのですが、ナノ物理っていったい何だったんでしょうか?」
師匠「そもそもナノとは何か知っておるかな?」
秋山「あ、あのー、実はそこから説明してほしいのですが…」
師匠「ナノとかマイクロは、10分の1の乗数を表す接頭語で、マイクロは、10分の1の6乗、つまり、0.000001じゃ。ナノは10分の1の9乗だから、0.000000001になる。」
秋山「へぇーそういう意味だったんですか。で、物理とどう関係するんですか?」
師匠「つまり、ナノ物理は、0.000000001メートルの世界の物理ということじゃ。原子の世界は、これよりさらに10分の1小さい。また、マイクロの世界は、生物の最小単位と言われている。ナノは、その中間で、いわば、分子レベルの大きさの世界じゃ。」
秋山「そんなに細かく分類されるんですね。でも、ナノ物理という新たな分野を作った意味があったのですか?」
師匠「物理は、単純に分けると古典物理と量子力学になる。古典物理は、我々の生活上あらわれる物体の運動で、その物理に従う物体は、ある程度大きいものとされる。一方、量子力学は、電子や光子などの微視的粒子を表現する物理で、古典力学とは違った性質を示す。」
秋山「なるほど、わかります。」
師匠「で、ナノスケールは、いわゆる、その両者の中間で、実体としては、電子などに比べて十分大きく、古典物理的なんじゃが、物理的な性質は、量子力学なしに記述できないのだか、一筋縄に行かない部分もある。」
秋山「結構、興味深い分野なんですね。」
師匠「うむ。歴史的には、量子力学が発展して、さらにその奥の素粒子を探求してきたのじゃが、ちょっと後ろに下がって、分子レベルを調べてみると、意外な結果を出した、っちゅう感じじゃ。」
秋山「だんだん、わかってきました。」
師匠「しかも、生物レベルにも関係しているし、技術的発展も面白いということで、一気にブームとなった。もちろん、現在でも研究は盛んだと思うが、流行り言葉としての『ナノ物理』は、もう使われなくなったのかもしれん。」
秋山「でも、まだまだ分からないことがたくさんある、というか、これからの可能性があるということを知ることができて、良かったです。」